TamatsuLab
slide1

ホームトピックス>2023年1月の2 外国人技能実習生制度はなくすべきか?

2023年1月の2 外国人技能実習生制度はなくすべきか?

外国人技能実習生制度が昨今、人権侵害あるいは強制労働の温床などと批判されています。国内外で問題点が指摘されるこの制度は存続すべきでしょうか、それともなくすべきでしょうか。この制度の本来の目的は何でしょうか。本来の目的を達成するのにこの制度は適切といえるでしょうか。外国人技能実習生制度にはどのような問題があるでしょうか。この制度の運用とその問題、課題について考えてみましょう。

2023年1月の2 外国人技能実習生制度はなくすべきか?

外国人技能実習生制度というのは、日本が外国人の技能実習生を受け入れる制度です。この制度は1993年につくられたものだそうです。この制度が昨今、人権侵害であるとか、強制労働であるとかいった批判が国内外で相次いでいます。

外国人技能実習生制度の目的

制度の目的は、ひとことで言うと開発途上国等の「人づくり」に協力することです。厚生労働省のホームページには、

外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としております。
引用サイト:外国人技能実習制度について |厚生労働省

と書いてあります。
先進国として日本は、開発途上国等に技能・技術または知識の移転を図っていく、そのために「人づくり」に協力する、というのが技能実習生制度の目的になります。つまり、外国人技能実習生制度の目的は開発途上国等の「人づくり」であり、日本の役割は開発途上国等から来た実習生たちに「学ばせる」ことです。

外国人技能実習生制度の運用

それでは、外国人技能実習生制度の運用はどうなのでしょうか。本来の目的である開発途上国等の「人づくり」のための制度の運用になっていますでしょうか。それとも、目的からは外れた制度の運用になってしまっているでしょうか。
もちろん、真面目に日本で学び、将来は祖国に戻ってその国の経済発展に貢献しようと真剣に考える実習生たちの期待に応え、真摯に技能・技術あるいは知識を伝授しようとする受け入れ企業も少なくないと思います。
しかし、昨今多く指摘されているのが、この制度が開発途上国等の「人づくり」のためというよりも、「安い労働力集め」のために使われているというものです。つまり、開発途上国から「安い労働力」を集めて、日本で働かせようとするのがこの制度の実態だというのです。
どうやら技能実習生たちを単なる「労働力」としか見ていない受け入れ企業も多くあり、そこで発生した問題が国内外で批判が相次ぐ原因になっているようです。

外国人技能実習生制度の問題

外国人技能実習生制度の何が問題なのでしょうか。人権侵害や強制労働の温床だとまで国内外で指摘されてしまうとは、一体何が起きているのでしょうか。
まずは、労働基準法の違反行為です。技能実習生に仕事をさせる際は、労働基準法を守らねばなりません。しかし、違法残業をさせたり、最低賃金未満で働かせたりするなど、違法行為をする事業所が後を断ちません。
実習生が逃げ出さないようにパスポートを取り上げてしまうところもあるそうです。しかし、パスポートの取り上げは人権侵害として、禁止されています。ただ、失踪してしまう実習生も少なくないので、受け入れ企業にとっては悩ましい問題かもしれません。暴力、暴言や性的嫌がらせなども実習生が受けた被害として問題視されています。
また、実習生の多くが本国で多額の借金を負わされ、債務労働者として日本へ「放り込まれて」いるという問題も指摘されています。

外国人技能実習生制度の課題

外国人技能実習生制度の課題、それはこの制度が開発途上国等の「人づくり」というよりも、「安い労働力集め」になってしまっている点にあると言っても過言ではないかもしれません。
外国人実習生が欲しい企業の多くは、開発途上国等の「人づくり」に協力したいわけではなく、単に「安い労働力」が欲しいだけというわけです。
「安い労働力」が欲しい企業は、賃金が安い企業が多いです。労働基準法をちゃんと守らない企業もあるかもしれません。実習生が安い賃金でまじめに働けば、日本人の賃金への下げ圧力にもなりますし、違法残業が常態化するおそれもあります。
実習生を単に「安い労働力」として使っているだけでは、開発途上国等の「人づくり」にはなかなか貢献しないことでしょうし、国内外からの批判もなくならないことでしょう。

外国人技能実習生制度はなくすべきか?

外国人技能実習生制度は、本来の目的である開発途上国等の「人づくり」に貢献しているとは言えないかもしれません。では、この制度は無くすべきでしょうか?
製造業大手であれば多くの場合、開発途上国等にすでに工場や拠点を持っています。そしてその国で現地採用しています。必要に応じて現地採用した人材を日本で研修させたり、あるいは指導できる日本人を現地に出張させて人材育成したりしています。開発途上国等の「人づくり」に貢献するためならそれで十分ですし、「安い労働力」を求めるなら開発途上国等で製品をつくればいいでしょう。大手企業にとっては、実習生制度は必要ではないかもしれません。
では、開発途上国等に工場や拠点を持たない中小企業はどうでしょうか。実習生の安い労働力に頼っている中小企業にとって、この制度が無くなってしまうのは大きな痛手です。彼らにとっては開発途上国等の「人づくり」に貢献するかどうかはともかく、「安い労働力」が無くなってしまうのは困ります。
ただ、実習生はいずれ本国に帰るべき人材です。中小企業をずっと支えてくれるわけではありません。それに、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転が進んで彼らが競争力をつけるようになれば、日本の中小企業の仕事は将来無くなってしまうかもしれません。
単に「安い労働力」が欲しいからこの制度を続ける、というのはあまり日本の国内外の評判や中小企業の将来にとって良い考えではありません。開発途上国等の「人づくり」に貢献するためなら、別にこの制度にこだわる必要はありません。
中には、この制度の目的が開発途上国等の「人づくり」だというのは単なるタテマエ、飾りの目的であって、開発途上国等に工場や拠点を持たない中小企業が「安い労働力」を手に入れられるようにすることがこの制度の本当の裏の目的である、と指摘する人もいます。そうだとしたら、この制度を利用した中小企業は「安い労働力」を手に入れて儲かっているでしょうか?実習生を受け入れている中小企業の現状を見てみるとそうでもなさそうです。中小企業は大企業の二次下請け、三次下請けのところが少なくありません。実習生を受け入れている中小企業の多くは、元請けからの厳しい値下げ圧力にさらされ、利益が圧迫され、やむにやまれず「安い労働力」に手を出すことになります。でも、「安い労働力」に手を出せばさらに元請けから値下げ圧力を受けるので、経営は決して楽にはなりません。
苦しい下請け中小企業にとって「最後の切り札」とまで言われた外国人技能実習生制度ですが、中小企業の救世主にはならないようです。むしろ、実習生が帰って行って技能、技術又は知識の開発途上国等への移転が進めば、中小企業にとっては自らの首を絞める事態になりかねません。
下請け中小企業の経営が苦しくなるのはその商売の構造、ビジネスモデルに問題がありそうです。「安い労働力」に手を出すより、ビジネスモデルを見直すことのほうが中小企業の経営者が考えるべき課題かもしれません。
いずれにせよ、現在実習生を受け入れている企業は、この制度が将来大幅に変更されるか、場合によっては無くなっていく可能性も含めて、将来への対策を考えておいた方がよさそうです。


△トピックスに戻る

ページのトップへ戻る