持続可能な開発目標(SDGs)と企業の行動方針について>8「働きがいも経済成長も」
SDGsの8番目は「働きがいも経済成長も」です。目標は「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」としています。経済という漢字は経世済民の略ですが、英語の economy は国などが発行するお金とモノやサービスがつくられて消費される社会のシステムを意味します。経済成長とはその貨幣による経済システムが育って大きくなることです。これまで多くの人々によって豊かになるには常に経済成長が必要だと信じられてきており、経済成長と持続可能性との両立は大きな課題と言われています。ここではさらに、働き甲斐あるいはディーセント・ワークとの両立を目指しています。
貨幣経済システムにおいて、経済成長が必ず必要であると考える人々は少なくありません。経済成長すれば、増えた富を分配することができます。経済成長していなければ富は増えず、人々への分配を増やすことはできません。成長が無ければ社会は停滞します。停滞する社会では人々は豊かにならず、社会への不安、不満やストレスは増大しやすくなります。経済成長できなければ、だんだん衰退していくことになります。衰退する社会では人々はだんだん貧しくなり、社会に不満やストレスがあふれてきます。場合によっては社会が崩壊の危機にさらされるかもしれません。経済成長は人々がより豊かになり、社会の将来に期待を持ち、また貨幣経済が停滞せず発展しやすくなるためにも有効であるとされています。また、社会が崩壊するリスク要因にもなりかねない停滞や衰退を回避するためにも、必ず経済成長を目指すべきだとする考えも根強くあります。
一方で、社会が安定して持続可能であるべきだとする考えが近年拡がりを見せています。歴史を見れば、さまざまな国家、社会が誕生、成長、衰退、崩壊を繰り返してきました。国家が誕生し、成長している間は勢いがあり人々も元気に見えますが、ひとたび衰退、あるいは崩壊が始まると多くの人々が苦しみ、死んでいくことになります。暴動や内戦、あるいは国家間の戦争によって多くの人々が死ぬこともあります。社会の活動が原因による気候変動や環境破壊によって、将来人々が生きられなくなる可能性もあります。持続可能でない社会で将来に不安を抱え、多くの人々が死んでいくのは恐ろしいことです。
では、経済成長と持続可能性との両立は可能なのでしょうか。それとも、国家や社会の経済成長と持続可能政は両立せず、必ず破たんするものなのでしょうか。経済成長と持続可能性との両立は答えのない課題です。国家運営において衰退や崩壊は避けなくてはならないことであり、常に経済成長をめざすことが求められます。しかしながら、経済成長がエネルギーの大量消費や環境破壊の増大をもたらすのであれば、それは将来の破たんにつながるおそれがあります。もしかしたら、これらの両立は不可能であり、持続可能で経済成長を続ける社会は実現できないのかもしれません。
ディーセント・ワークはいろいろな翻訳がされいますが、意味としては「人として受け入れられる充分によい仕事」と考えられます。たとえ社会が成長し経済が活発に動いていても、人々が過酷な労働を強いられ、幸せを感じられないようではいけません。より良い社会づくりに欠かせないのは人々の幸せです。人々が幸せになるためにも、社会の仕事が人々にとって受け入れられるものでなくてはなりません。
幸せになるとは、満足を知ることです。不満であり、妬みや恨みを抱える状況ではなかなか幸せを実感できないものです。
人々の幸せを考えるにあたっては、人間という生きものの本質を考える必要があります。ディーセント・ワークを考えるにしても、人間の本質を考えずに議論することはできません。例えば、「掃除」という仕事があるとします。ある人は「掃除」をつまらない嫌な仕事だと思うかもしれません。別の人は、「掃除」をまわりを美しくするやりがいのある仕事だと思うかもしれません。仕事そのものに違いはありませんが、それをする人の気持ちや考えによってディーセント・ワークになったり、ならなかったりするのです。
貨幣経済は、人間をお金への欲望へと引き込みます。どれだけ危険で獰猛な動物でも、腹いっぱい食べたら満足してそれ以上欲しがりません。しかし、人間のお金への欲望は底しれません。どれだけ稼いでも欲望は尽きないのです。底知れないお金への欲望が経済を活発にし、同時に人々を不幸にします。人々を幸せにする社会とは、人々が満足を知る社会をつくることです。
経済成長と持続可能性、そしてディーセント・ワークとの両立はその方向性を間違えると自己矛盾や社会の歪を生み出すおそれがあります。ただ、その考え方を変えていくことでもしかしたらより良い社会の方向性が見つかるかもしれません。
企業においても、固定観念あるいは古い考え方を捨てて、成長と持続可能性、そしてディーセント・ワークについての現状を把握するとともに、より良い企業にしていくための方向性を考えていく必要があります。
なお、国連は「働きがいも経済成長も」に関して12項目の具体的なターゲットを設定しています。実際に「働きがいも経済成長も」の目標を実現していくためにも、これらのターゲットについても見て、考えていきましょう。
ここでのターゲットは一人当たり経済成長率の持続です。日本は経済が停滞しており、成長率は 0%付近をうろついています。このターゲット通りであれば、日本は経済を停滞し続けるのが目標ということになります。他の国々が経済成長しているのに、日本だけが停滞しているのでは、すなわち日本は相対的に衰退していることになります。国家であればあくまで経済成長を目指すべきであり、競争に負けない国づくりをしていくべきでしょう。SDGsによるこのターゲットは日本としてはそのままでは受け入れがたいものです。
後発開発途上国については、「年率7%の成長率を保つ」と具体的な数値目標が掲げられています。先進国等と比べて大きな経済成長を続けることで、将来的に途上国が豊かになっていくことを目指しているものと思われます。年7%の成長とは相当なものです。具体的にどのようにしてこの目標を実現するかについてはいろいろな課題がありそうです。
数値としての成長率をあげる方法はいくらでもあります。ただ、数値としての成長率が上がったとしても、人々が幸せになるとは限りません。富の分配がきわめて不公平であれば、社会における多くの人々が不満を増大させることになります。
企業としても、自らの成長とともに国家全体の経済成長に貢献できるよう、活発に経済活動をしていくことが大切です。また、途上国に進出した場合には自社の売り上げ・利益拡大とともに現地国家の経済成長に貢献できるよう、活動を推進していくことが望まれます。
どうやら国連は高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことを含めて、多様化、技術向上及び革新を通じて経済のより高いレベルの生産性を達成することが人類の向かうべき道だと考えているようです。
これは一見間違っていませんし、実際に多様化や技術向上あるいは技術革新があれば生産性が高まることもありますから、そのような方向に向かうのもある程度は悪くないことでしょう。
ただし、企業経営者であれば「自分たちは商人である」ことを忘れてはいけません。私たちは商人であり、商人の基本を外れてまで、経済生産性とか、高付加価値とか、労働集約だとかを追いかけていてはいけません。
企業としては、商人としての基本を徹底していくということを大前提としたうえで、高い生産性の実現を目的とした付加価値の向上、労働集約型・資本集約型セクターの改善・改革、そして商品・サービスの多様化を図っていくことが重要になってくるでしょう。
これは行政としての政策についてのターゲットと考えられます。促進すべきは開発重視型の政策であり、生産的活動やディーセント・ワークの創出、起業家精神、創造性と革新を支援していくことと、起業や中小企業の成長を促進するために金融サービスを利用しやすくするなどの政策をしていくことが求められます。
企業の立場から言えばあまり行政に口出ししてもらいたくないところです。行政がヘンな縛りを設けた補助金制度などをつくると、補助金を受け取る企業の活動はその縛りによって制限されます。
企業としては、商人としての基本を徹底したうえで時代の変化に柔軟に対応し、開発・イノベーションの動向を視野に入れつつ成長を図っていくことが今後とも重要になってくるでしょう。
これはややわかりにくいターゲットです。「経済成長と環境悪化を切り離すように努める」とあるので、そういう「努力」をすればいいということなのでしょうか。そもそも経済成長と環境悪化を切り離そうという試みは可能なのでしょうか。技術革新などにより一時的に環境悪化を食い止めることはできても、両者を完全には切り離せないのではないでしょうか。
資源効率を段階的に改善することや、先進国による農業などでの窒素利用効率の改善、水や電気の節約に取り組むことによって、一時的に環境悪化を少なくすることはできるかもしれません。しかし、それで経済成長と環境悪化が切り離されるわけではありません。技術による改善は無限にできるものではないからです。
このターゲットについては、こういう「努力」をしてますよというポーズ、アピールをする企業が増えているように思われます。企業は成長を目指さなくてはなりません。少なくとも生き残りを図っていかなくてはならないのです。それなのに、ハイリスクな目標に向かって突っ走るわけにはいかないのです。
だからといって、このターゲットを企業は無視して良いわけではありません。企業活動をしているうちに突然、「何の努力もしていない」と外部のエキセントリックな環境運動家などから攻撃される可能性もあります。場合によってはインターネットで炎上し不買運動などが盛り上がり、その影響で経営が苦しくなる恐れもあります。現実に正しい努力をするというよりも、環境団体などから攻撃されないように気をつけなくてはならないというのが企業にとって重要な課題になりつつあります。
企業としては、あくまで成長と生き残りを優先事項としたうえで、新技術の積極導入と資源効率向上に取り組んでいくことが大切になってきます。また、広報活動のしかたに気を付けることや企業評判の改善に努めることも求められてくるでしょう。
若者たちは社会の将来の担い手です。彼らが失業し、あるいは就職しても仕事に希望が持てないのであれば、社会の将来は暗くなります。若者たちの失業率を改善するだけでなく、彼らがディーセント・ワークに就けるようにしていくことは、社会の未来を明るくしていくためにも大切なことです。障害者は社会においてまともな仕事に就きにくい脆弱な立場にあります。障害者たちがディーセント・ワークに就けるようにしていくことは、脆弱な立場の彼らを守っていくというだけでなく、彼らの能力を十分発揮してもらうことで社会の発展に寄与する狙いもあるでしょう。男性及び女性の労働機会の平等は言うまでもありません。
ここで同一労働同一賃金の達成がターゲットとして出てきます。企業においては年齢による不当な賃金格差、障害者への賃金格差、男性と女性の賃金格差、あるいは正規雇用と非正規雇用の賃金格差を設けないなどの対応が求められます。日本では外国人実習生についても同一労働同一賃金を適用すべきかどうかが今後大きな問題となるかもしれません。
企業としては男性、女性、若者、障害者を含めた雇用機会の平等を図るとともに、適材適所とディーセント・ワーク実現、そして同一労働同一賃金の確実な達成を目指していくことが求められます。
若者が就業せず、職業訓練をすることもなく、将来に希望を持たずに日々を過ごすような社会ではいけません。社会の未来を明るくするためにも、若者が活き活きと働け、その能力を磨くことが出来る社会をつくっていくことが大切です。
企業としては、求人の際には若者の採用に積極的になるとともに、彼らのスキルアップを支援していくことが重要になってくるでしょう。
ここでは強制労働、現代の奴隷制と人身売買、児童兵士を含む児童労働について書かれています。
日本においては現在、これらは法律で規制されています。しかしながら、売春の強要、児童買春、児童ポルノ、未成年者の危険あるいは有害な労働など、非合法の労働は後を断たないといわれています。
また、長時間労働とサービス残業の慢性化、有給休暇取得拒否なども改善すべき課題と言われることが少なくありません。
外国人技能実習生制度を「現代日本の奴隷制度」と批判する国内外の記事も見られます。受け入れている企業によって外国人技能実習生への扱いはまちまちでしょうが、海外から批判されている現状は良いとは言えないでしょう。
企業としては、非合法の労働をしないだけでなく、非合法の労働をしていると思われる企業や団体と付き合わないようにしていくことが求められます。同時に、長時間労働やサービス残業、有給取得拒否など問題となりうる状態を解消するよう、職場環境の改善に努めることが大切です。外国人技能実習生を受け入れる場合はその受け入れ態勢を十分整備し、国内外から批判の的とならないよう注意しなくてはならないでしょう。
ここでは労働者の権利保護と、安全・安心な労働環境の促進について書かれています。移民労働者、とりわけ女性の移民労働者や不安定な雇用状態にある労働者についての権利保護と労働環境の改善促進が求められています。移民の受け入れは国家にとって重要課題です。受け入れた移民がなかなかまともな仕事に就くことができなければ、失業者となり街にあふれ、あるいは非合法の仕事に手を染めるなどして治安や社会風土の悪化が懸念されます。
日本においては外国人労働者は近年増えてきており、彼らの受け入れ体制の整備が課題となっています。
ここで不安定な雇用形態にある労働者とは、パート・アルバイトや派遣社員、契約社員など、いわゆる正社員ではない非正規雇用の労働者と考えられます。非正規雇用の労働者は不安定な立場にあり常に失業のリスクにさらされています。彼らの権利や労働環境の改善および正社員との不当な格差の是正は、社会を構成する人々の生活を安定化するためにも大きな課題とされています。
企業としては、安定した雇用によって地域に貢献していくとともに、外国人労働者や非正規雇用の労働者のスキルアップを支援し、また正社員登用への道筋を整備するとともに、すべての労働者の権利保護と労働環境の改善に努めることが求められます。
観光業を促進することは地域の発展や雇用創出につながります。観光客が交通機関を利用し、宿泊し、体験施設を訪れ、お土産などを買っていくなどで地域でお金を遣います。有名な観光地などでは観光業が多くの人々の生活を支える一大産業になっていることもあります。
観光業の促進にはリスクもあります。流行病などが発生すると観光客は激減します。観光業への依存が大きすぎるとそのリスクをもろに受けることになります。
また、観光客がゴミを落とし、文化財を傷つけるなど地域環境を破壊することもあります。観光客が独自の文化を持ち込むことで、地域の文化や価値観が失われてしまうこともあります。
持続可能な観光というのは、地域の環境や文化が守られつつ、安定して地域の経済発展に寄与し人々の生活を支える力になる観光をいうと考えられます。
企業としては、事業を進めるにあたって、活動地域の環境や文化を守り、観光資源の安定的に活用していくことが望ましいでしょう。また、海外進出先の環境・文化保護や観光資源の開発活動に参加していくのもよいかもしれません。
ここでは国内金融機関の能力強化について書かれています。
企業としては、戦略の一環として最新の金融サービスの活用などを検討し、事業計画に組み入れていくことによって、事業の成長を実現しやすくなることが期待できます。
ここでは途上国に対する貿易支援の拡大について書かれています。
企業としては、途上国との貿易をする際には、その貿易対象である産物が途上国の非合法な労働を用いるものでないことを確認することが大切です。また、貿易相手である途上国の労働環境の改善を支援する活動に参加するのもよいかもしれません。
ここでは若者の雇用改善について書かれています。
企業としては、若者を雇用する際の受け入れ態勢を整備するとともに、彼らのキャリアデザインを支援していくことが望ましいでしょう。
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