持続可能な開発目標(SDGs)と企業の行動方針について>2「飢餓をゼロに」
SDGsの2番目は「飢餓をゼロに」です。目標は「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」としています。飢餓とは食物が食べられず、飢えていくことをいいます。必要な食物がなければ、健康を維持するどころか、場合によっては生きていくことも難しくなります。人々が飢餓に苦しむことなく、健康を維持していくためには、適切な農業の発展維持とともに、食料を適切に分配する社会システムを構築していくことが大切です。さらに、人々が食料を買い占めたりしないよう、むしろ飢えている人を積極的に救済していくよう、人々のモラルが高まっていくことも求められます。
飢餓の原因には何があるでしょうか。何が人々を飢餓に追い込むのでしょうか。飢餓を引き起こす根本的原因を見間違えれば、間違った判断をして、間違った行動をとってしまいます。正しい行動を見つけ出すためには、飢餓の直接的原因ともに、その奥にある構造的要因を見ていかなくてはなりません。
飢餓の原因としては、自然災害、紛争、そして貧困があります。そして貧困の原因は貧困から抜け出す知恵や教育の欠如、貧困を助長する社会システム、貨幣経済による欲と奪い合い、そして自然あるいは人為的な災害があります。貧困状態にある人は往々にして衛生環境が悪く、十分な医療サービスが受けられず、教育も不十分で、疫病や詐欺、災害や紛争などの被害を受けやすい脆弱な立場にあります。
「飢餓をゼロに」するという目標を実現するためには、現在飢餓に直面している人々を救済するとともに、これから飢餓を生み出していくような原因をなくしていく必要があります。また、人々に自ら飢餓から脱していくための知恵を与えていくことも大切です。
企業活動をするうえでも、間接的に飢餓の原因となりうるような活動をなくしていかなくてはなりません。同時に、原因の原因をつくらないための具体的な行動をとっていくことが大切です。
飢餓の原因をつくらないための具体的な行動としては、「自然災害をより正確に予測し、災害から身を守る手段を講じること」、「災害時に備えて備蓄や助け合いの仕組みをつくっておくこと」、「紛争や人工的な災害がおきないようにしていくこと」、「貧困・経済的困窮が飢餓に直結しないような社会システムに変えていくこと」、「人々に自ら飢餓から脱していくための知恵を与えていくこと」、などが考えられます。
穀物の買い占め、農業から畜産業・工業など利益の高い事業への乗り換え、公害などによる農作物への被害、売れ残り食料の廃棄など、企業活動が間接的に食糧不足や飢餓の原因をつくっている場合もあります。
企業は自らの活動が飢餓問題を引き起こしていないかチェックし、行動を見直していくことが求められます。
企業活動が飢餓を引き起こすものとしては、例えば貧困層を狙った直接的あるいは間接的搾取活動、また貧困層を狙ったものでなくても貧困の拡大や飢餓の発生への主要な原因となる活動が考えられます。「飢餓をゼロに」の目標に向かうためにも企業自身がこのような飢餓を引き起こす活動をしないようにするとととに、そのような活動をしている企業から商品やサービスを買うなどの取引をしないようにしていくことが大切です。
なお、国連は「飢餓をゼロに」に関して8項目の具体的なターゲットを設定しています。実際に「飢餓をゼロに」の目標を実現していくためにも、これらのターゲットについても見て、考えていきましょう。
飢餓が蔓延すれば人々の生命や健康が危機に陥ります。飢餓を撲滅することは人々の生命や健康を守るための重要課題です。飢餓を解消するためには、まずは現在飢餓に直面している人々に必要な食料を供給していく必要があります。また特に貧困層や脆弱な立場の人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにするためには、良質な食料の安価な安定供給が必要です。このターゲットを達成するには、飢餓、貧困、脆弱な立場の人々に無償であるいは安価に良質な食料を供給していく社会システムをつくっていく必要があります。
ただ、飢餓に直面する人々が急速に増え続ければ、せっかく社会システムをつくっても容易には対応できません。貧困層や脆弱な立場の人々がいつまでも無償の食糧に頼り続ければ、社会はそれを支援するためずっと負担しつづけなければならなくなります。飢餓に直面する人々を直接救済するとともに、飢餓に陥るおそれのある人々が減っていくような取り組みもしていかなくてはなりません。飢餓に陥るおそれのある人々が減っていくためには、彼らが支援を受けなくても自ら食料を得ることができるよう、「生きていく知恵を与える」支援をしていくことが大切です。
飢餓対策は国家レベルで取り組むべき課題です。国家が食料備蓄や供給網を把握・管理し、飢餓にある人々を直接救済するとともに、国民一人一人に自ら飢餓に陥らないよう身を守る術を教え、同時に国全体で飢餓に陥る人をつくらないよう助け合いの精神を普及・醸成させていくことが大切です。
もちろん国家や社会が飢餓の原因となるようなことをしてはいけません。戦争や人為的災害を引き起こしやすい社会、格差を拡大させ貧困層を増やすような社会、脆弱な立場の人々が困窮しやすい社会は変えていかねばならないでしょう。
将来飢餓が発生しないようにするためには、飢餓にある人々や飢餓に陥るおそれの高い人々を物質面であるいは知恵の面で救済していくとともに、飢餓を生み出す原因をなくしていく取り組みをしていくことが大切です。企業活動をしていくうえでも、飢餓を撲滅するために国家や社会全体で取り組むべき課題に協力し、前向きに行動していくことが求められるようになってくるでしょう。
発育阻害は日常的に必要な栄養が得られない慢性的栄養不良によって、発育が十分得られない状態をいいます。成長期に十分栄養を得ることが出来ないと身体的、あるいは精神的な発育に大きな悪影響を及ぼすおそれがあります。またここでの消耗性疾患は栄養失調をさらにひどくした消耗症あるいは衰弱状態をいうと思われます。これらの深刻な問題を含め、あらゆる形態の栄養不良を解消していき、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズに応えていくことが求められます。若年女子、妊婦・授乳婦たちの栄養不良は、彼女たちの子どもの発育阻害や疾患の原因になります。また脆弱な立場である高齢者が栄養不良に陥ることも対策を必要とする課題だといえるでしょう。
栄養不良を解消するには、必要な栄養が得られるよう、毎日良好な食生活を維持することが大切です。家庭においても誰か少なくとも1人が栄養についてよく学び、家族全員が栄養不良にならないよう良好な食生活を維持していくことが望まれます。
国家として、社会全体で若年女子、妊婦・授乳婦に対して適切に栄養を学べる機会を提供し、彼女たちが栄養不良に陥らないよう支援していくことが大切です。企業としては、例えばダイエット商品を売りたいために女性たちを狙って様々な広告・宣伝をすることがあります。そのような広告・宣伝においても彼女たちが正しく栄養について理解できるような情報発信をしていくことが望まれます。彼女たちが栄養について間違った理解をし、栄養不良に陥るようなダイエットをしてしまうような広告・宣伝はいけません。必要であれば国家として、栄養について間違った情報を発信するような広告・宣伝を規制しなくてはならないでしょう。
子どもや高齢者など、場合によっては貧困・脆弱な立場の人々への直接的な食糧供給も必要でしょう。物流の整備、宅配サービスの充実なども効果があるかもしれません。
飢餓を無くすという目標の中で、このターゲットは小規模食料生産者の生産性と所得について焦点をあてています。
小規模食糧生産者の生産性向上は、食料供給、貧困や飢餓問題にも関連する課題です。
小規模生産者は往々にして先進の技術・知識を持たず、資金面が苦しくて機械や設備の導入もままならい状況にあり、生産性や利益率が低い状況で苦しんでいます。災害が発生したり、燃料が高騰したり、生産品の市場価格が暴落したりすると、生産者自身が貧困に見舞われ、飢えに苦しむこともあります。
小規模生産者は食料の安定供給に重要な役割を担います。彼らが苦しみ、経営が行き詰って、ついには消えていくことは食料の供給リスクを高めます。小規模生産者が安定して食料生産を続けられるようにしていくことは、食料の安定供給や飢餓の撲滅のためにも重要です。
小規模生産者が安定して食料生産を続けられるようにしていくためには、彼らが大規模生産者などに負けないよう競争力を高めるとともに、災害などで苦しい状況に置かれたときに支援できるシステムが必要と考えられます。競争力を高めるには技術やマーケティング知識などによる生産性や利益率を向上させること、苦しい状況への支援としては投資、金融サービス、または付加価値を上げるアイデアによる支援、あるいは食料生産以外で収入を得られるようにする支援などが考えられます。
小規模生産者の生産性が増えれば、所得が倍増すれば、飢餓はなくなるのでしょうか。小規模生産者の生産性を増やす取り組みをすれば、生産性向上に成功する生産者も出てくるでしょう。場合によっては何倍も所得が増える生産者も出てくるかもしれません。逆に、生産性向上に失敗し、所得が増えないどころか減ってしまう生産者も出てくるかもしれません。小規模生産者の間で勝ち組と負け組の格差が拡大し、場合によっては飢餓に苦しむ人が増えてしまうおそれもあります。
小規模生産者の生産性と所得の向上に取り組むことは重要な課題です。ただし、安易に行動すると格差の拡大や飢餓の増加を招くおそれもありますので、よく注意する必要があります。
良質で安全な食料を安価に安定して供給するためには、信頼できる食料生産システムの確立が重要です。望まれるのは生産性が高く生産量の多いシステムの確立です。
ただし生産性や生産量を急速に向上させようとすれば、往々にして生態系を破壊したり、土壌の質を悪化させたりします。効率を重視するため農業生産の大規模化、画一化を推進する企業、国なども少なくありません。ただ、画一的に同じ作物ばかりを生産していると、気候変動や干ばつなどの災害によって一気に甚大な被害を受けやすくなります。食料生産システムをつくるにあたっては、災害に対して被害を最小限にとどめるようリスクの分散につとめるとともに、将来大きな問題になりうる生態系の破壊や土壌の質悪化をひきおこさないよう留意しなくてはなりません。
では、どのような食糧生産システムが望ましいのでしょうか。どうすれば生産性が向上し、生産量が増え、生態系が維持され、災害に対する適応能力が高くなり、なおかつ土地や土壌の質が改善するような持続可能な食糧生産システムがつくれるのでしょうか。
どのような食糧生産システムが望ましいかは地域ごとの土壌や気候、得られる水源、つくろうとしている作物、あるいはその地域の生態系などによって異なってきます。どのようなシステムをつくるかは、その地域の食料ニーズによって違うでしょうし、短期的な生産性向上を重視するか、それとも中・長期的な安定を重視するかによってもシステムづくりの考え方は違ってくるでしょう。
ただ、どのような食糧生産システムをつくるにしても、これらのターゲットを考慮に入れていくことが重要な課題になります。
種子や苗木、あるいは球根、または家畜の精子、卵子などは食料生産の重要な資源です。遺伝資源をおろそかにしたり、あるいは不用意にいじったりするのは将来の食料確保に重大な影響を及ぼします。食料の生産業者はできれば、安価で利益の出やすい遺伝資源を使いたいものです。
もし仮に、ある種類の種子が最も安価で利益が出やすいことがわかったため、すべての生産業者がその種類の種子だけを使って食料生産するようになったとします。そうすると、その種子がかかりやすい病気が大流行したとき、食料生産が壊滅的打撃を受けることになります。病気の流行による打撃をできるだけ少なくするためには、単一種類の種子のみに依存した生産をするのではなく、できるだけ多様な種子を使って多種の作物を栽培することが大切だとされています。そうすれば、一つの種子が病気でやられても、他の作物の収穫は期待できるからです。目先の利益ばかりを追いかけるのでなく、リスク管理もしなくてはならないということです。
生産性や付加価値の向上を目指すのであれば、品種改良や栽培・飼育の改良は欠かせません。しかし、効率を追求した品種改良や栽培・飼育を続けた結果、その改良により生産された食料が環境破壊や人々へのアレルギーを引き起こすこともあります。品種改良や栽培・飼育の改良が必ず環境破壊や人々のアレルギーを発生させるというわけではありませんが、自然でない人工的な方法で食料を生産することと、環境破壊およびアレルギーは大いに関連性があるといわれています。
遺伝子組み換え技術の取り扱いはどうするべきでしょうか。遺伝子組み換え技術も「伝統的な知識」と同様に取り扱うべきか、それとも全く違うものとして厳重に管理すべきかは、国家レベル、あるいは国際レベルで考えていかなくてはならない重要な課題といっていいかもしれません。
ここでは,途上国の農業生産能力を強化するための投資拡大を呼びかけています。たしかに途上国の農業への投資が拡大すれば、その生産能力も向上しやすくなるかもしれません。しかし、まずは現在行われている途上国への投資の検証から始めるべきかもしれません。実際、今行われている投資が途上国の人々の生活向上に役立っているかはわかりません。むしろ、投資が途上国の格差拡大を加速し、かえって飢餓に直面する人々を増やす結果になっているかもしれないのです。
途上国への投資は重要です。しかし、投資による影響を検証することなく投資を拡大していくのはよいことではありません。
日本は食料輸入国であり、農産物の貿易自由化に向けた国際交渉を進めていくことは極めて重要です。ただ、日本の国益を考えるのであれば貿易全体を見る必要があり、農産物市場のみを見て貿易を考えると過ちを犯すおそれがあります。SDGsの趣旨に沿って考えるならば、貿易自由化を進めるにあたって、自国の飢えを無くすだけでなく、貿易相手国あるいは途上国等の飢えが解消されていくような方向に向かうよう制度の見直し・交渉を進めていくということになるでしょうか。
人々の生活が安定するためには食料価格の安定が欠かせません。食料価格の極端な変動は人々の生活に大きな影響を与えます。食料価格は暴落しても、暴騰しても、人々の生活に深刻な影響を与えるのです。
インフレなどで食料価格が暴騰などすれば、とりわけ貧困層の人々の生活は大きな打撃を受けます。たとえ食料があっても、価格が高くて買うことが出来なければ、貧困層は飢えに苦しむことになります。
逆に、食料価格が暴落すると、食料販売への依存の大きい生産業者の生活が成り立たなくなります。生活が成り立たなければ、農業などの食料生産を放棄する人々も出てきます。食料生産を放棄する人々が大量に出てくれば、こんどは食料が足りなくなり、価格が暴騰し、食料が買えずに飢餓に苦しむ人々も出てきます。
企業活動をしていくうえでも、食料価格の変動をリスク要因としてとらえ、食料価格の安定化への取り組み、あるいはリスク対策としての備蓄の確保などを進めていくことが大切です。
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